01 帆刈公慈(Art Director)
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五十嵐隆裕(Photographer)
2017.03.16

インタビュー一覧

GO-SEES Creator’s Interview

新しいビジュアルが生まれる瞬間 GO-SEES Creator’s Interview

GO-SEESでは、日夜さまざまな撮影が行われています。弊社スタジオで撮影されたビジュアルは実際にどのようなクリエイターによって制作されているのか。ここではGO-SEESを利用して頂いているクリエイターにインタビューし、それぞれの写真やビジュアルへのこだわりを伺っていきます。

第1回はフォトグラファーの五十嵐隆裕さんと、アートディレクター(以下AD)の帆刈公慈さんです。今春にデビューするファッショッンブランド「ESSEN. LAUTRÉAMONT(エッセン・ロートレアモン)」の撮影後に話を伺いました。

スタッフクレジット:AD/Koji Hokari Photo/Takahiro Igarashi(SIGNO) ST/Mihoko Sakai Hair/Takayuki Shibata Make/ITSUKI
インタビュー:坂田大作(SHOOTING編集部)


—— まずADの帆刈さんから自己紹介をお願いします。

帆刈 僕はNYのNo11,incというクリエイティブエージェンシーでの仕事を始め、バックグラウンドとしては、ファッション、ビューティに特化した仕事をずっと続けてきました。これしか出来ないです(笑)。その代わり、この分野では負けないと思っています。

帰国後はフリーランスで活動していて、ファッションブランドのブランディングや、ブランドの立ち上げ、カタログ等、ブランド周りをやらせてもらっています。

ロゴや書体等デザインまわりも受けるのですが、どちらかと言うと「どういうビジュアルを作りたいか」ということを、よく考える方だと思います。

もちろんクライアントからのオリエンを受けてからですが、イメージを最終的なビジュアルに落とし込んでいくのが得意だし、好きですね。

帆刈公慈さん帆刈公慈さん

—— この撮影で五十嵐さんを起用された理由を教えてください。

帆刈 今回の「エッセン・ロートレアモン」のお話を頂いた時に、お話を聞いている段階で「この企画の撮影は五十嵐さんだな」って、すぐに名前が浮かびました。

ブランドの持つ洗練されたデザインや品質を考えながら、ファッションフォトとしてダイナミックに、着崩してもいいからクオリティの高い写真、ということを考えれば五十嵐さんがピッタリだと思ってお願いしました。

五十嵐 ありがとうございます!

五十嵐隆裕さん五十嵐隆裕さん

—— お二人はいつ頃から仕事をされているのですか。

五十嵐 1年ほど前からです。

帆刈 五十嵐さんは、とにかく一緒にやりやすい。僕の言ったことはもちろんやってくれますが、常にその上を越えようとしてくれる。

現場の雰囲気も、明るくポジティブな方向へ持っていってくれるので、それもいいですね。モデルの表情って、例えば「笑顔で」って言ってもなかなか難しいですよね。五十嵐さんの場合は、海外で勉強されていたこともあり、外国人モデルでも朝からコミュニケーションを取って、本番を撮る段階ではリラックスしたいい関係が出来上がっているんです。

五十嵐さんもビジョンを持っていて、求められていることに対して逆算してスタッフィング含めて考えてくれるので仕事がしやすいです。

—— フォトグラファーの五十嵐さんの自己紹介をお願いします。

五十嵐 僕は渋谷の日本写真芸術専門学校という所に通っていました。当時は今よりもフォトグラファーを目指す人が多くて、それこそホンマタカシさん、HIROMIXさんが活躍されていて男女問わず写真家が注目されている時代でした。

その中で皆と同じルートで歩いていくよりも、人と違うことをしてみたいと思っていました。僕はとにかくファッションをやりたかったので、海外に行きたかった。というよりもアヴェドンに付きたかったんです。

彼の写真集"In the American West”をみて、あれがとにかく好きで(笑)。とにかくアシスタントになりたくて、英語と写真の勉強をしていました。その間に彼は亡くなってしまったのですけど…。

帆刈 アシスタントに付いている時に亡くなったの?

五十嵐 いえ、僕が「リチャード・アヴェドン・ファンデーション」にインターンとして入った時には亡くなっていました。

ただその後も仕事は山のようにあって…、版権の処理とか。僕はデジタイズとアーカイビングを担当していました。彼の撮ったフィルムを朝から晩までスキャンして、ほぼ全てのオリジナルのフィルムを扱いました。1枚1枚に番号をつけてアーカイブしましたね。

—— 日本に帰るきっかけはあったのですか。

五十嵐 ずっとアメリカに住むつもりはなかったので、特にきっかけというものはなく、「母国で生活したい」という必然性からですね。ビザの問題もありました。

—— Brooks Institute of Photography、I.C.P(International Center of Photography)で学んだことはなんですか。

五十嵐 ライティングですね。映画に基づいて、「人に光をどうあてるか」「ライトって何?」ということを延々と考えていました。「照明技術」という学問を学ぶわけです。

それとビジネス。「おまえの1ショットはいくらなのか」とか。フォトグラファーとして生計を立てるにはいくら必要なのか、から始まります。そのためには、いくらの仕事を何本受注すればよいのかとか、だから何をしろと。

エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。

—— アートや表現云々ではないんですね。

「コマーシャル写真において、写真をアートだと思っているなら辞めろ」くらいな事を言われます。「写真家はアーティストじゃない。アーティストとは言うけれど、それは社会的にうまく立ち振る舞うためであって、君たちはビジネスマンなんだ、一人の会社なんだ」と。

帆刈 そこまではっきり言ってもらえるのは、むしろありがたいかも。

五十嵐 ほんとにありがたいです。すごくシビアですよ。そこに乗れればがんばればいいし、そのベースに到達できないなら辞めるという判断もしやすいんです。アメリカ的な合理性を感じました。

—— 帰国後は伊島薫さんに付かれていますね。

五十嵐 はい。その当時、伊島さんが編集長をされていた「ZYAPPU」という雑誌を昔から見ていて、憧れていました。2年ほど、付かせて頂きました。伊島さんのところでは、日本での仕事のやり方だったり、広告や雑誌のワークフローも学びました。

エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。

帆刈 カタログやルックブックというと、全身を見せる、服を見せる、というお約束がありますが、今回のクライアントは「かっこいいものを」ということで、自由にやらせて頂きました。

五十嵐 楽しかったです。日本のファッションだと「ここまで入れて下さい」とか「横はむかないで下さい」とか、色々制約があるのですが、今回はそれがなかった。モデルも「まず自由に動かせてもらえたのでやりやすかった」と話していました。

—— 動きがナチュラルで、決めポーズではなく途中を切り取っている感じですね。

五十嵐 全然決めている感じではないです。

帆刈 表情もリラックしていて、いい感じに撮れたね。

五十嵐 スタッフのキャスティングも良かったし、僕も自由に切り取らせてもらいました。

帆刈 革ジャンもあるのですが、春ものなんです。

五十嵐 それで最後は脱いでもらったり(笑)。

エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。エッセン・ロートレアモン 2017s/sより。

—— 撮り方をフォトグラファーに委ねてもらえている気がします。

五十嵐 そうなんです。全部決まっているなら誰が撮っても同じですからね。

帆刈 五十嵐さんが撮りやすい環境を作るのも、僕の仕事だと思うんですよ。楽しんでもらわないと、後で受け取ってデザインする方も楽しくないですからね。

五十嵐 ADが僕のやっている方向性を現場でいいか悪いかを判断してくれて、「いい!」ということになれば、クライアントもスタッフもアクセル踏んでいけますから。

帆刈 スタッフィングが良かったです。

五十嵐 そうですね。今回はみんなNYで仕事をしているチームでした。

帆刈 モデルとのコミュニケーションも全員英語でできていたしね。そうするとモデルも状況がわかるというか。日本語で「ごにょごにょ」って話されたら、モデルにしたら「私、何かよくないのかしら?」って、不安に思うじゃないですか。

五十嵐 モデルはデリケートですからね。

帆刈 「あーして、こーして」も英語で言うけれど、「いいよ!」っていう話になればモデルもリラックスして乗ってくれますからね。カタログサイズもA3なので見応えがあると思います。

カタログ複写カタログ複写

—— 撮影で色々なスタジオを使われると思いますが、GO-SEESはどこが魅力ですか。

帆刈 GO-SEESはキレイなのがいいですよね。メイクルームもトイレも。みんなの気分も上がります。

現場は“クライアントに自分の仕事をプレゼンする場所”でもあるので、こういうスタジオは価値があります。

五十嵐 スタジオは機材と同じで自分を表現するための重要なツールです。撮影は“ショー”だと思っています。自分のパフォーマンスを見て頂くわけで、汚い場所はいやじゃないですか(笑)。美しいものを作っていくのが僕たちの仕事ですからね。

あと僕は女性との仕事が多いので、まずスタジオのトイレを先に見ます。トイレが汚いとモデルが帰ったり…。あり得ないことがあるんです(笑)。

スタジオは、エントランスから「上がる場所」であってほしいなと思います。音質も重要ですね。そういう意味で、GO-SEESは武器としての総合力が高いというか、「スタジオの佇まい」がとても好きで、これからも使い続けたいですね。

—— 白ホリスタジオの場合、アシスタントの質も重要になってきます。

五十嵐 GO-SEESのスタッフはマイルドな感じの人が増えましたね。僕のアシスタントもGO-SEES出身なんですよ。

帆刈 そうなんですか。

五十嵐 よく使うスタジオの勝手を知ってもらっているのがいいですね。

—— 五十嵐さんの意向やライティングも汲みしてもらいやすいですね。

五十嵐 そうなんです。ちょっと特殊なことをやっても意図もすぐ理解して動いてくれます。僕にとってのお客さんはクライアントだし、僕は芸者だと思っている。お金を頂いて踊る人なんです。

アシスタントは、そのお客さんにまず向いてほしいというのがあります。僕の機材を運ぶ前に、まずは僕のお客さんに挨拶してほしいですね。

—— 「フォトグラファーに付く」という意識が強いんでしょうね。

五十嵐 そこは関係なく、僕が仕事を進める上での武器になってほしいんですよ。

帆刈 なるほど~。

五十嵐 がむしゃらな人の方がいいし、フォトグラファーを目指す人が減っている今はチャンスですよ。挨拶したもの勝ちだと思うんです(笑)。

スタジオ内でものを倒したときに「すみませんでした」って声を出さない人も多い。それは非常にまずいよね。そこはスタジオ業界全体の問題として、教育していくべきだと思います。

—— デジタルカメラの高感度が進化して、ロケ派も増えました。

五十嵐 そうですね。僕がアシスタントの頃はスタジオに入って「あれで」って言うと、スタジオアシスタントが光を組んでおきます。そこからアレンジしていくんですね。

現在、フォトグラファーに対してそういう動きができる人がすごく減っていると思います。それはライトの勉強をしていないから。だから全体のレベルの底上げが必要なんでしょうね。

帆刈 そうなんですね。

メインライトはブロンカラーのpara 133を使用。メインライトはブロンカラーのpara 133を使用。

五十嵐 僕はpara 133をよく使うんです。ライトにも芯とかフォーカスがあるんですが、それを上手く扱えるアシスタントがあまりいないですね。

—— 今は大きなセットを組まれる方は少なくなっています。使用機材も少なくなってきて、色々なセッティングを学ぶ機会が減っているとも言えますね。

帆刈 天候が読めない時も多いので、外で撮影する理由がない限り、カタログや広告の撮影はスタジオがいいと思いますけどね。寒くて天気が読めないより、モデルのコンディションを含めて、必要ならHMIでも何でも用意してもらって、いい状態で撮りたいって思いますね。

五十嵐 レタッチに甘んじてしまうのも嫌だなと思って、僕の場合は新しい武器としてフェーズのXFも導入しました。値段のことは言いませんが、お客さんに対していいものを提供したいという“本気度”を見せる意味もあります。生涯の仕事として命をかけているので、一番いい環境、状態で仕事を続けていきたいなと思います。

—— ちなみにNYではどんなスタジオを使われていましたか。

帆刈 僕が多かったのはMilk(Milk studio)とか、Industria Superstudioですね。Milkは一番多かったかな。

Milkはかっこいいんです。ロゴやデザインもブティックデザインエージェンシーが作っていて、ちゃんとブランディングされている。全てがオシャレ。めちゃ高いんですけど(笑)。

眺めもいいし、イタリアやフランス、イギリスなど欧州のクライアントをMilkに招待して、「僕たちはNYのスタッフですよ」ということを見せたいんですよね。

フォトグラファーは高級車で来るとか、言っちゃえばshow offの世界なんですけど。そういう所でアーティストのランクを品定めする人もいるわけで、そういう事は現実にあります。

—— GO-SEESが目指す方向性も似ているかもしれませんね。

帆刈 GO-SEESはよりよい可能性があると思います。

五十嵐 このスタジオだったら、もっと強く押し出せることはたくさんあると思いますよ。Milkは撮影だけでなくデザイナーがいて制作部署があり、展示会、ギャラリーほか様々な展開をしています。

帆刈 行くとね、いるんですよ。世界一流のフォトグラファーやAD、モデルが。それがものすごく刺激になる。GO-SEESだったらいい感じの駐車場やスタジオといい、レタッチ部門もあって日本でそういう場所になれそうだけどね。これからの展開に期待したいです。

Creator’s Profile

  • 帆刈公慈(Hokari Koji)

    1976年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、渡米。約8年間No11,incにて数々のファッションブランド・化粧品の広告、ロゴ、ECサイト等のアートディレクションを手掛ける。その後、ダグラス・ロイド氏の元で、シニア・アートディレクターとしてエスティローダ―のグローバルキャンペーンを担当。2011年に帰国後、現在はフリーランスで活動。 http://kojihokari.com/

    帆刈公慈(Hokari Koji)

  • 五十嵐隆裕(Igarashi Takahiro)

    1980年東京都出身。日本写真芸術専門学校を卒業後、渡米。 Brooks Institute of Photography、I.C.P卒業。Richard Alvedon Foundationでのインターン、伊島薫氏の助手を経て独立。2014年(株)ゴーニーゼロ設立。2016年シグノに所属。雑誌、広告、カタログ等で活躍中。 http://signo-tokyo.co.jp/photographer/takahiro%20igarashi/ http://takahiroigarashi.tumblr.com/

    五十嵐隆裕(Igarashi Takahiro)

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